「さようなら」

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「ちょっと用事があって櫻田くんの学校に行くから変装しただけ」 「大学生の仮装?」 「そんな感じ」 「残念ながら全く大学生には見えないよ。院生でも怪しい」 そんなことはわかっている。本当の学生時代から、大人びて見える柳井は年上に勘違いされることが多かった。まるで高校生のような櫻田と並んでいたらさぞかし不思議な取り合わせだろうと思う。 いままで二人の釣り合いなど考えたことはなかった。けれど今はそれが気になって仕方がない。 津守と話をしているときの櫻田は違和感がなかった。真面目そうな櫻田と年齢通り落ち着いて見える津守とは親しい先輩と後輩のようだった。渡会に話しかけられている時も優しい兄に世話をしてもらっている弟のようでどこか馴染んでいた。 けれど柳井といるときの櫻田は既存のどの関係にもそぐわない様に感じる。先輩でもなく、後輩でもなく、兄でもなく、弟でもなく、友人でもない。 ああ、だから自分は櫻田を友人たちのところに連れてきたのだなとようやく気づく。 自分ではわからない感情の動きを教えて欲しくて、彼をここへ連れて来た。自分と櫻田の関係性を見定めて欲しくて友人たちの前に彼を呼んだ。 けれど実際に彼らにそれを問うことはできなかった。彼らに自分たちがどう見えているのか、聞くのが酷く怖かった。 「あ、寝ちゃったな」 渡会が隣の津守を見やって呟く。腕を下にしてテーブルに突っ伏した津守の髪が空いた皿に掛かっている。腕を伸ばして取り除けてやりながら柳井は彼の顔色を確かめた。普段と変わらない様子で小さく寝息を立てている。 「最近研究室に泊まり込んでたから疲れてるんだよ」 「相変わらず仲いいね」 頻繁に部屋を行き来していないと知らないはずのことを言う渡会に、柳井はにやりと笑う。けれど失言と思わなかったのか渡会は微笑んだ。そして箸を置くと居住まいを正す。 「あのさ、実は、一緒に住んでるんだ」 「え」 「先月から。俺の仕事が落ち着いてきたし、新しく部屋借り直してさ。今日はその報告しようと思ってお前呼んだんだ」 「ぉぉぉおおおおっ。おめでとう。良かったね」 思わず感嘆の声をあげながら柳井は渡会の手を握って振った。長らく友人たちのことを見届けてきたという自負があるので柳井は自分のことのように嬉しくなった。 「ありがとう。なんだか結婚したみたいな反応で恥ずかしいな」 「俺からしたら似たようなもんだよ。いやあ、おめでとう」 二度目は眠っている友人に言う。 「今度お祝い用意する」
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