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そこから二人の関係がただの友人ではないと踏んだ。男同士で好いたの惚れたのと言い合っているのが不快だから、柳井はどうなのかと訊いているのか。
「…別に、友達と久しぶりに飲めて楽しかったよ」
まさか櫻田がそんな差別的な感情を持つとは思わなくて、つい答える声が尖った。親しい友人たちを否定されたような気持ちになったのもあるけれど、なによりまっすぐな櫻田らしくない言い回しが嫌だった。
柳井の気配がおかしいのを感じたのか櫻田が顔を上げる。眉を斜めにしてどこか頼りない顔つきをする。珍しく気弱な表情に柳井が目を瞬くと、彼はまた目を伏せた。
「…気を悪くしたのなら謝ります。すみません。でも、柳井さん、渡会さんのこと好きですよね」
爪先で同じ色目のタイルを選んで蹴るようにしながら櫻田が言う。子どもみたいな仕草がなんだか可愛らしくて微笑ましかった。しかしかけられた言葉に顔が顰む。
「んー、それは好きだけど…」
自分の言う好きと櫻田の言う好きとのニュアンスが違っている気がした。
「辛くないですか」
「なんで?」
「だって、自分の好きな人が、仲のいい友だちと付き合ってるなんて」
まるで自分がどこか痛むように頭を垂れながら、櫻田は声を萎ませた。
どうしてかはわからないけれど、彼は柳井が渡会に叶わぬ恋心を抱いていると勘違いしている。それはない、と柳井は心の中で叫ぶ。
いくら自分の感情に鈍くても断言できる。過去も現在も、渡会に対して恋愛感情を抱いたことはない。なので慌てて付け足す。
「津守のことも渡会のことも友達としてはすごく好きだよ。俺のこともよくわかってくれてるし付き合いやすいし。だから長いこと続いてるしね」
必死に言い連ねると余計に疑惑が深まるとわかっていたけれど止められなかった。まさか大きな男同士の三角関係を疑われるとは思っていなかったので、とても焦っていた。恐ろしい勘違いだと勢いよく首を振る。
しかし案の定、櫻田は信じていないようだった。
「どうにもならない感情があるの、仕方ないと思います。いけないってわかってても人を好きになることあるの、わかります」
ぽつりぽつりと吐き出すように言った櫻田が柳井を見上げる。まるで彼自身がそんな苦しい恋をしているかのように眉を寄せて。
切ない表情に柳井の鼓動が跳ねる。さっき遮られた言葉が喉で蟠って辛いのか、喘ぐように櫻田が口を開く。
「櫻田く…」
「俺、好きな人がいるんです」
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