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そう言って、上司はそれまでの端正な佇まいが嘘のようにふわふわと大きな欠伸をした。黒い縁の眼鏡の奥で色の薄い瞳が眠たそうに瞬く。
「明日、午前中事務所で。それまでに話の要約と今回の問題点と今後の対応を考えておいてください。私は午前中ずっといるので君が来たら声を掛けて」
「わかりました」
肯くと上司はいつも通り穏やかな顔で柳井の手元に視線を落とした。
手を拭いたまま、あのリネンのハンカチを握りしめていた。まるで櫻田に縋るように。助けを求めるように。
「素敵なハンカチですね」
すべてを見透かすような上司は、そう言ってもう一つ大きな欠伸を溢した。
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