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「謝罪はもう聞きました。何度も謝ってもらう必要はありませんよ」
「……はい」
「いま君に必要なのは、これからどうするか、ということですね」
そう言ってことりと音を立ててボールペンを長机に置いた上司は、語調を変えた。
「今後は気をつけて。トラブルに発展しそうな事柄は躊躇いなく相談してください。事後よりも事前の方が対処は楽なので。よろしくお願いします」
これで説教は終いとするのか朝倉が長く息をついた。ズレてはいない眼鏡を指の先で押し上げて指先を組む。
「この話は部長にあげます。注意を受けることになると思います。多分査定に響くでしょう。次のボーナスは下がるかもしれません。でもそんなことは仕事で挽回すればどうとでもなります。私はね、君に期待をしています」
「え」
「こう言ってはなんですが柳井くんは自己評価が低いですね。気を使える性格なのはどの職種でも歓迎されるでしょう。優秀ですし顔は男前です。外見なんて関係ないと思うかもしれませんが人相手の仕事なので与える印象がいいに越したことはありません。ただ君は自分を安く見過ぎている。それが押しの弱さになって玉に瑕です」
わかっていましたかと訊かれて柳井は首を横に振る。少なくともこの上司がそんなふうに自分を評価しているとは露ほども思っていなかった。返す言葉のない柳井を見遣って朝倉が唇で微笑む。
「この仕事は相手の言うことをはいはいと聞いていればいいと言うものではありません。無理を言って言われて、うまく折り合いをつけるのが大事です。そのためには客先を力技で納得させる能力も必要になります。言い方は悪いですが意見の違う相手をうまく丸め込んで納得させる強引さですね。君に欠けていたのはそこです」
ゆっくりと言い聞かせるように言った朝倉は柳井の顔を正面から見ていた。細く黒い縁の眼鏡越しに見透かすような色の薄い瞳が、じっと柳井の様子を伺っている。柔和な印象の容貌のなかでその強い視線だけが浮いている。
四十手前のまだ若いこの上司が職場で密かに恐れられている由縁だ。この目で見つめられると誰だって秘密をこじ開けられたよう気になる。
本人に自覚はないのかもしれない。瞬きを一つするとレンズ越しの目は普段の凪いだ色に戻った。
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