そして二人は

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柳井の言葉を聞き終えた櫻田は自分の膝を見つめるように俯いた。シートベルトを握った手はそのままで反対の指はドアハンドルを掴んでいる。出て行ってしまうのかと身構えていると彼が珍しく言い淀むように、俺もですと言った。 「夏くらいからサークルの部長になってどうしようかと思ってました。本当に向いてないんです、そんな人を纏めたり折衝したりするポジション。柳井さんもご存知の通り人に合わせることが出来ない性格なんです。思ったことはすぐ言っちゃいますしね」 「はは、うん。よく知ってる」 「でも部員とか外の人とかに対応するとき考えるんです。柳井さんだったらどう言うかな。どういう顔するかなって。あの、人に気を遣わせない柳井さんならどうするかなって、真っ先に頭に浮かぶんです。いつも俺の中はあなたのことばっかり。気がおかしくなりそうなくらい」 顔を上げた櫻田の瞳はひどく潤んでいて、瞬きで涙がぽろりと零れ落ちた。泣かせちゃった、とどきりとしながらシートベルトを外す。自由になった体を櫻田に寄せて唇の端に留まっている涙を親指の腹で拭った。 「櫻田くんのこと、好きだ」 柳井の告白に櫻田は震えた。しかし柳井を見上げるとすかさず返してくる。 「俺も、柳井さんのこと好きです」 双方向の告白が二人の間で溶けてゆっくりと染み込んでくる。レンズ越しの灰色がかった目が落ち着きなく動くのを柳井はただ見つめた。そのうち観念したのか恥ずかしそうにしながら目をあわせてくれる。 にこりと微笑むと櫻田はきゅっと唇を噛んだ。いつもは太々しいまでに冷静な青年の狼狽える姿はとても可愛らしくて、柳井の心臓が不規則に跳ねる。 「……本当にそう思ってくれてる?」 「信じてくれないんですか」 「そうじゃないよ。でも、櫻田くんには俺みたいなのじゃなくて、さっき隣にいた女の子みたいな可愛らしい子が似合うと思って」 「似合うも似合わないも、それに俺の気持ちが関係ありますか」 櫻田らしい物言いに、ついつい笑ってしまう。久しぶりの彼の物言いはやはり、すとんと柳井に馴染んだ。じっと見つめていると、櫻田は数回瞬きをしてからそっと目を伏せる。 「あの子はただの後輩です」 「あんなに優しい顔してたのに?」 「特別優しくしてた訳じゃないですよ。それに、もしそんなふうに見えてたのなら、それは……俺が柳井さんのこと考えてたからです」
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