そして二人は

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「俺みたいにあの子の相手してたってこと?」 「そう、です」 「俺あんな感じなのかな」 「あんなです。相手が話しかけて来やすいようににこやかにして、間違っても眉間に皺は寄せてないですよ」 「この皺が好きなのに?」 そっと柳井は櫻田の眉の間を指で撫でる。途端に顔を赤くした櫻田は自分に触れる柳井の手を掴んで止めた。 「ちょっとだけ、触ってもいい?」 手のひらを掴まれたまま問いかける。 微かに開いた彼の唇が答えを探すように閉じて開いてを繰り返した。暫く躊躇うようにそうしていたけれど、意を決した様子でこくりと頷く。 掴んでいる柳井の指に指を絡めて、自分の体に引き寄せる。 柳井は引かれるままに体を傾けた。顎を上げて待っていた櫻田の唇に唇が触れる。緊張で硬くなった唇に一瞬掠めるようなキスをした。 すぐに体は離れて、櫻田が気力を使い果たしたようにシートに沈み込む。ふわふわの猫っ毛から覗く耳は真っ赤になっていた。 顔はどうなっているのだろう。気になって前髪に触れると両手で顔を覆われた。 「いまは駄目です。止めてください」 「なんで」 「わかって言ってますよね。恥ずかしいからですよ」 「でも、見たい。お願い。こっち向いて」 そう言って指に柔らかい髪を絡めると櫻田がゆっくりと体を起こした。赤い頬に恥ずかしくて堪らないといった表情を乗せている。あどけなく溢れる含羞に彼独特の色気が滲む。 元が生真面目な顔立ちなので余計に微かな色香が際立った。本人は恐らく自覚していない。けれど潤んだ黒い瞳に、気づけば柳井は吸い込まれるように顔を寄せていた。 二度目のキスは柳井から仕掛けた。ぎゅっと身構える櫻田の、膝の上に置かれた左手を握る。強張って冷たくなっているその手を親指の腹で摩りながら戸惑う唇に口づけた。 触れて、離して、また触れる。何度か繰り返すと力の抜けた程よく柔らかな唇が沿うように当たった。 この何も知らないような青年の官能を引き出したい。ふとそんな欲望が湧いて、上唇を吸って微かに口を開かせた。 拒まれはしなかったけれど、堪らずといった感じで櫻田の手がチェスターコートの胸を掴む。 舌先を擦り合わせるようにすると、くちゅりと水音が鳴った。耳慣れない響きに櫻田が一層体を硬くする。それでもたどたどしく舌がついてくるのが勉強家の彼らしかった。
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