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紫の雨
海のそばということもあり、魚介類を使った料理を出してくれるこじゃれたレストランを見つけた。奢ると言った手前、目ん玉が飛び出るような値段だったらどうしようと不安になったけど、意外と財布にやさしいお値段でほっとした。
お祝いも兼ねているのでレストランに入る気満々だったけど、紫雨ちゃんは寒いから温かいものがいいと、近くにあったチェーン店のうどん屋さんを指差した。
「遠慮しなくていいんだよ?」
「遠慮じゃなくて、おしゃれなレストランとか肩凝りそうじゃん。俺は、こういう店の方が落ち着く」
自己満で望まないお祝いを押し付けるのは嫌なので、彼の意見を採用することにした。
店に入ると、制服を着ているのはあたしたちだけのようだった。卒業式後の食事は、焼肉食べ放題とかが多いみたいだ。友達のSNSを見て知った。この時間はカラオケに行っているらしい。
何人かの友達から『どこ行ったの?』『きいなもおいでよ』的なメッセージが、LINEに届いてた。まだ返事もできていない。自分は違うと思っていたのに、あたしもどうやら恋愛を優先する人間だったらしい。
でも、今日だけは許してほしい。もしかしたら、紫雨ちゃんに会えるのはこれが最後かもしれないから。
「そう言えば……紫雨ちゃん、いつ引っ越すの?」
釜玉うどんを食べながら、今日会いに行った目的のことを訊いた。
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