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「し、紫雨ちゃん、煙草吸うんだ。ダメだよ、まだ高校生なのに。お酒と煙草は二十歳になってから」
風紀委員みたいに注意する声は、恥ずかしいぐらい上ずって震えていた。
「相変わらず、きいちゃんは真面目なんだね。煙草、吸ったことないの?」
「ないに決まってるじゃん」
「じゃあ、吸ってみる?」
「なんでそうなるの? 吸うわけな……」
「冒険だよ、冒険」
銜えていた煙草をあたしの方に向けると、紫雨ちゃんはにやりと口角を上げた。煙草を吸うことにあのときと同じ『冒険』という言葉を使うのはずるい。自分が銜えていたものを差し出すのも。
またルールを破って『冒険』したくなってしまう。
これは違法行為だ。いけないことだ。そう言い聞かせながら、ゆっくりと唇を近づける。煙草特有の嫌な煙のにおいが鼻をつく。
そっと銜えると、煙草を持っている彼の指にも少し唇が当たってしまった。胸の高鳴りを抑えられない。
「ゴホッ、ゴホッ」
加減がわからず、思い切り吸って派手に噎せた。
「あーあ、勢いよく吸うから。大丈夫?」
「死ぬかと思った。もう二度と煙草なんか吸わない」
ごめんごめんと笑いながら、紫雨ちゃんはあたしが吸った煙草を銜えた。これってつまり……そういうこと、だよね?
大嫌いな煙草に感謝する日がこようとは。
「ねえ、その吸い殻もらっていい?」
「ええ? こんなもんどうすんの?」
「罪を犯した記念というか、自分への戒めにする」
プラス、(間接)キスの記念。
※20歳未満の喫煙は法律で禁じられています。喫煙シーンが出てきますが、20歳未満の喫煙を推奨するものではありません。何卒ご了承くださいませ。
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