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「遅かったじゃない。きいなちゃんがお待ちかねよ」
「は? きいちゃん、ここで何してんの?」
久しぶりに会った紫雨ちゃんは、目にかかるぐらい長かった前髪が短くなっていた。というか、全体的にさっぱりしていて爽やかになっている。きっと就職するために整えたのだろう。見慣れない姿に胸が高鳴る。
当の紫雨ちゃんは、あからさまに嫌そうな顔をしていた。
「あんた、きいなちゃんにも行き先言ってないんだってね。一体どういうつもりなの? わざわざ来てくれたんだし、ちゃんと言いなさいよ」
「……チッ。最悪」
舌打ちをひとつ、紫雨ちゃんは顔を顰めた。
病院での一件があるので、この二人が一緒にいるのが怖い。心臓が早鐘を打つ。
「親にも行き先を教えないなんて、どうかしてると思わない? ねえ、きいなちゃん」
「もうその話は済んでんだろ。いいから、向こう行ってろよ。どうせ、俺に興味なんかないくせに」
冷ややかな口調で、紫雨ちゃんは言った。
「何よ、偉そうに。誰のお陰でここまで大きくなったと思ってんの? 女手一つ、苦労して育ててやったのに。恩を仇で返す気なの?」
おばさんが紫雨ちゃんの腕を掴み、思い切り睨みつけながら言った。我が家では見ることのない光景に、肩が竦む。
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