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「喜ぶわけねえだろが! 最初は、自分が何されてるのかもわからなかったんだぞ。だから、わかったときは死のうと思ったよ。何度も何度も! けど、俺が死んだってお前を喜ばすだけだと思ったら、悔しくて死ねなかったんだよ!」
激高してはいるものの、紫雨ちゃんは一度も否定しなかった。
気づいたら体が震え、涙が溢れていた。
「そんな……ひどい……」
パニックに陥ったあたしは、泣きながら家を飛び出した。
「あ、きいちゃん! 待って!」
「ちょっと! 待ちなさいよ、紫雨!」
紫雨ちゃんの声とおばさんの声が背後から聞こえていたけど、あたしはもうどうしたらいいのかわからなかった。
とにかく走った。嗚咽を漏らしながら、足を前へと進ませる。
全力で走ったのに、公園の辺りで紫雨ちゃんに追いつかれた。
「きいちゃん、待って」
「いやっ……!」
腕を掴まれ、咄嗟に振り解いてしまった。
「……汚らわしい?」
「え……?」
「体売ってたような奴に触られたくない?」
「ち、違うよ! そうじゃない! あ、あたし……」
紫雨ちゃんを前にしたら、止めどなく涙が溢れ、言葉が上手く紡げない。
「あたし、ずっとそばにいたのに……紫雨ちゃんのこと、他の誰より見てるつもりだったのに……全然気づけなかった。紫雨ちゃんがそんな目に遭ってたなんて……」
いつもそばにいたのに、あたしはどうして気づいてあげられなかったんだろう。
もしかしたら、彼を救えたかもしれないのに。
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