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鈍感な自分が許せなくて、あの頃の紫雨ちゃんを思うとやるせなくて。
ゆっくりとその場に崩れ落ちると、冷たい砂埃が舞った。
「……ごめんね。紫雨ちゃん……ごめん……」
「なんできいちゃんが謝るんだよ。気づかなくて当然だよ。俺だって必死で隠してたんだから。気にしなくていいんだ。もう済んだことだから」
泣きじゃくるあたしを、紫雨ちゃんは胸に抱き寄せた。
もう済んだこと――そんな言葉で片付けられるはずがなかった。
あたしが暢気に「紫雨ちゃん好きー」とか思っていた間、紫雨ちゃんは口にするのもおぞましいような酷い目に遭っていた。
なんで。どうして。そんな言葉しか出てこない。
辛くて、苦しくて、情けなくて。
どんなに強く背中にしがみついても、煙のように消えてしまいそうだった。
「……初体験の相手になってなんて頼むんじゃなかった。あたしまで紫雨ちゃんに無理強いしちゃった。ほんとにごめんなさい……」
時間を巻き戻せるのなら、誕生日の夜に戻ってぜんぶなかったことにしたい。
「そんな風に思うな。俺は無理強いなんかされてない。生まれて初めて、自分の意思でヤッたんだ。俺の方こそ、過去のこと隠したままで悪いことしたと思ってる」
否定するようにぶんぶんと首を振っていたときだった。
「うわぁ、エッチしてるー!」
おかしな声に顔を上げると、学校帰りの小学生たちがあたしたちの周りを取り囲み、好奇の目を向けていた。
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