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彼らから見れば、公園で高校生が抱き合っているのはそれなりに刺激的だったのだろう。
「おい、お前ら。これのどこがエッチなんだよ。意味も知らないくせに使うんじゃない」
立ち上がって紫雨ちゃんが注意すると、子どもたちは冷やかしながら逃げて行った。
今、この状況で無邪気な子どもたちを見るのはきついものがあった。
紫雨ちゃんに初めておんぶしてもらったとき、痩せていても男の子の体は硬くて意外とがっしりしてるなって感じたけど、今この歳になって小学生を見ると、細くて小さくてとてもか弱い。
あんなに小さな男の子が……そう思うと堪らなくなった。
「ここじゃなんだし、どっか行こうか」
そう言って、紫雨ちゃんはあたしに手を差し出した。
幼い子どもに戻ったみたいに、あたしは紫雨ちゃんに手を引かれ、泣きながら歩き出した。
駅まで行ってちょうど到着した電車に乗ると、あてもなく揺られた。
このままどこまでも逃げて行きたい気分だった。
「海、行こうか」
しばらくすると、紫雨ちゃんがぽつりと呟いた。
「うん。いいよ」
冬の海なら静かだし、人も少ないだろう。
あたしたちが住んでいる地域は、県の南側で海に面している。高校の近くにも干潟があるし、わりと海は身近な存在だけど、あえて行くことは少ないかもしれない。
夏場には人が犇めき合っているだろう砂浜には、誰もいなかった。冬の海は静かで寒い。夏のあの暑さはどこへ行ったのだろう。
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