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空の色も波の色もくすんで見える。灰色がかった世界。
「寒いな」
「そうだね」
砂の上を歩きながら、短い言葉を交わす。訊きたいことはたくさんあるはずなのに、話すことが何もない。
たぶん、それは紫雨ちゃんも同じで。
寄せては返す波の音だけが、鼓膜に響いている。
「あ。ごめん。さすがにスカートで海は寒いよな。ズボンでも寒いのに。何も考えてなかった」
突然、何かを思い出したように立ち止まり、紫雨ちゃんが言った。
「大丈夫、気にしないで。膝下は確かに寒いけど、コート着てるし、スカートの下にハーフパンツも穿いてるから平気だよ」
本当は校則で禁止されているらしいけど、自転車通学なのでスカートの下に体操服のハーフパンツを穿いている。スカート一枚で自転車に乗る方が危ないのに、校則って意味不明なものが多過ぎる。
「そういうことか。急にスカート捲ったらびっくりすんじゃん」
「ああ、ごめん。Don't worry, I'm wearing! だよ。さすがのあたしも、いきなりパンツは見せないよ」
「きいちゃんなら、うっかりやりそうじゃん」
「ねえ、あたしのことどんだけバカだと思ってんのー?」
ハハッと笑う紫雨ちゃんの背中を、後ろから思い切り押した。
そのまま追いかけっこみたいに走り回っていたら、砂に足を取られて顔面から転んだ。
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