387人が本棚に入れています
本棚に追加
「あー、寝すぎちゃった。ん? あんた誰? 紫雨のオンナ?」
台所に面した襖が開き、中から煙草を銜えた気怠げな女性が出てきた。
「きゃっ! ごめんなさい」
あたしが声を上げると、紫雨ちゃんが飛んできた。
「どうした……あ。なんだ、いたのかよ」
急なカオスだ。まだ着替えの途中なのに。慌てて頭からジャージをかぶる。後ろ前が逆で首が苦しい。
「なんだじゃないわよ。こんな時間から家に女連れ込んで、台所でヤるんじゃないわよ。ヤるなら自分の部屋でヤッてよね」
恐ろしい単語にめまいがする。
久々に見たおばさんは、ちっとも変わっていなかった。一人だけタイムマシンに乗って未来にきたみたいだ。相変わらず、美人で色っぽい。
「変な勘違いすんなよ。これ、浅丘さんとこのきいなちゃんだから」
「ええ! うそ、きいなちゃん? やだー、大きくなって。もうすっかりお姉さんじゃなーい」
紫雨ちゃんが説明するや否や、物凄い勢いでおばさんが抱きついてきた。うちの母からは絶対にしないであろう、煙草とお酒と甘いバニラのような香りがした。
「そっか、そっか。あなたたちが初めて会ったのは、確か保育園のときよね。あんなに小さかった二人が、エッチするようになるなんて。そりゃ、私も年取るわ」
「へっ? ご、誤解です! あたしと紫雨ちゃんは……」
「あー、もうこんな時間じゃない。ねえ、紫雨。赤のパンプス出しといて」
誤解を解く暇もなく、おばさんは慌ただしく準備を始めた。これから出かけるようだ。
最初のコメントを投稿しよう!