365人が本棚に入れています
本棚に追加
/152ページ
慌ててあたしを抱き起した紫雨ちゃんは、驚きながらも笑いをこらえ、複雑な顔をしていた。
二人で冷たい砂の上に座る。
「なんでだよ。普通、転ぶ前に手つくだろ」
「だって、手伸ばして走ってたんだもん。うぇ、最悪。砂食べちゃった」
「顔、砂だらけじゃん」
「やだぁ、見ないでー!」
ポケットからハンカチを出し、顔の砂を払った。涙や鼻水のせいで、砂が顔に張り付いてしまっている。
紫雨ちゃんは遠慮なく豪快に笑っていた。
「きいちゃんってよく転ぶんだな。一年も経ってないのに、もう二回も見てるよ」
「瞬発力ないし、どんくさいんだよ。かわいいでしょ?」
「うん。かわいい」
「ええっ!」
思っていた反応と違い過ぎて、マスオさんみたいな声が出た。
「きいちゃんは、かわいいし面白い。お陰で、ムカムカしてたのも忘れたよ」
「そうなの? それはよかった」
「ほら、貸してみ。まだいっぱいついてるから」
紫雨ちゃんが砂を払ってくれるようなので、ハンカチを渡して目を閉じた。
「ごめんな、きいちゃん」
「急にどうしたの?」
顔をハンカチで払われていて目は開けられないので、代わりに首を傾げた。
「きいちゃんに『初めての相手は紫雨ちゃんがいい』って言われたとき、ちゃんと自分の過去を話して、何が何でも断るつもりだったのに、結局言えなくて」
最初のコメントを投稿しよう!