エデン

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「紫雨ちゃんが謝ることないよ。あたしが無理やり頼んだんだし」 「頭ではわかってたのに、俺も一度でいいから普通の女の子としてみたくなったんだ。自分のことを好きだって言ってくれる女の子としたら、嫌な記憶が少しは薄れるかなって。自分勝手な理由で引き受けて、本当にごめん。こんな汚い手で、きいちゃんに触っちゃいけなかったのに」  顔を拭っていた手を掴み、あたしは目を開けた。 「そんな風に言わないで。紫雨ちゃんには悪いけど、あたしにとっては今まで生きてきた中で一番幸せな出来事だったんだから。それが少しでも紫雨ちゃの役に立ったのなら、あたしはうれしい」  あたしの言葉に、紫雨ちゃんは目尻を下げた。 「あんなに好き好き言われたことないから、変な感じだったよ。俺なんかの何がいいんだろうって、考えてもわからなくて。きいちゃんって変わってるなって思った」 「ああ、そうかもね。自分でも物好きだなって思う」 「おいっ!」とツッコんだあと、紫雨ちゃんは続けた。 「でも、うれしかった。だから、同じ気持ちになれないのが悔しくて、申し訳なくて。なんで好きになれないんだろうって、考えてもどうしようもなくて。自分ではどうにもできないんだ。色んな感情を押し殺してたら、いつの間にか大事な感情も消えてたから」
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