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「あ」と言って、紫雨ちゃんが足を止めた。視線を辿ると、何やら派手な見た目のホテルが目についた。
「これってもしかして……」
「さすがにラブホはマズいか」
「べ、別にいいんじゃない? ただ寝るだけなんだし、あたし入ったことないから見てみたい。あの、ほら、社会見学ってことで」
「ハハッ。いいね。俺も入ったことないし、大人の社会見学だ」
大人の社会見学か。悪くない響き。
「なんか……思ってたんと違う……」
ワクワクした気持ちが先走り過ぎたせいか、扉の向こう側の光景にがっかりせずにはいられなかった。
「逆に、今どきこんな古めかしいとこあんだなって感じ」
「だよね……。前に友達から女子会しようって見せてもらった写真のホテルは、お城みたいだったのに」
リゾートホテルみたいな広くてきれいな空間を想像していたので、古い旅館の趣に驚きを隠せなかった。
「まあ、団地よりはお風呂広いし、ベッドも大きいよね。外で凍え死ぬことを考えたら天国じゃん。なんかマッサージ器もあるし」
必死で長所を探す。心ばかりのサービスか、ベッドの枕元には肩や首の凝りを解すのであろうマッサージ器が置いてある。
「あー! それは触んない方がいいよ」
「え、なんで? お金かかるの?」
「そうじゃなくて、そんなの誰が使ってるかわかんないし、ちゃんと掃除してるかわかんないじゃん」
「紫雨ちゃんって潔癖だっけ? そういうの、気にするんだ」
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