変態

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「はぁ? なんで俺が」  ブツブツ文句を言いながら、紫雨ちゃんは玄関へ行って靴箱からパンプスを出していた。それが済むと、テーブルに無造作に置かれていたハイブランドのバッグの中身を確認してからハンカチを入れ、玄関へ置きに行った。 「あれがないこれがないってうるさいんだよ。早く出てってほしいから手伝ってるだけ」  口ではきついことを言っていても、紫雨ちゃんは優しくて面倒見が良いなと思って見惚れていたら、変な目で見ていると勘違いさせてしまったらしい。言い訳なんてしなくていいのに。 「ごめんね、きいなちゃん。せっかく来てくれたのに、私これから仕事なのよ。これで出前でも取ってちょうだい。あと、これもどうぞ」  ばたばたと忙しなく準備しながら、おばさんはバッグと同じハイブランドのお財布から万札を一枚取り出してテーブルに置いた。それと、子どもの頃によく食べていた五つのパックが連なったラムネのようなものを、あたしの手の上にぽんと置いた。 「おい。きいちゃんにこんなもの渡すんじゃねえよ」  確認する前に、紫雨ちゃんが取り上げておばさんに突き返そうとした。 「いいよ、紫雨ちゃん。せっかくくださったんだし、あたしこれ好きだから」 「「え?」」珍しく、二人の動きがシンクロした。なぜか目を丸くして、あたしを見ている。 「えっと……ラムネでしょ? あ、風船ガムかな」  何故か、空気が凍っている。
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