紫の雨

8/19

367人が本棚に入れています
本棚に追加
/152ページ
「ごめん。あんときは、俺も気が立ってたから。俺を嫌いになった方がきいちゃんのためだと思って、わざと酷いこと言ったんだ。バカにしたわけじゃない。最初からヤるつもりはなかったから、きいちゃんが知らなさそうなことを言っただけ」 「なんだ、そうだったんだ。もし、あたしが知ってたらどうするつもりだったの」 「いや、絶対知らないもん」 「なんで言い切れるの?」 「だって、コンドーム見てラムネって言う人だよ? 知ってるわけないじゃん」 「ああ、そんなこともあったね」  再会して、紫雨ちゃんの家で雨宿りしたときの話がすでに懐かしい。 「あれから、まだ一年も経ってないんだよね。なんかもう何年も前のことって感じがするよ」 「そうだよな。今となっては、あのとき転んでるきいちゃんに声をかけてよかったのかどうか、わからないけど」 「寂しこと言わないでよ。あたしはよかったと思ってるよ。もう一度、紫雨ちゃんに会えてよかった。あのときは緊張して言えなかったけど、助けてくれてありがとう」  改めてお礼を言うと、硬かった紫雨ちゃんの表情が少し綻んだ。 「いいえ。どういたしまして」  にやにやしながら、紫雨ちゃんはあたしの顎の下を撫でた。 「もう、またそれ? え、もしかして愛情表現?」 「ああ。そうかも」 「そういうことなら、どうぞ」  顎を差し出したら、丁重にお断りされた。  内心、紫雨ちゃんがこの時間をどう思っているのかはわからないけれど、笑顔が見られてあたしはほっとしていた。
/152ページ

最初のコメントを投稿しよう!

367人が本棚に入れています
本棚に追加