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「ごめん。あんときは、俺も気が立ってたから。俺を嫌いになった方がきいちゃんのためだと思って、わざと酷いこと言ったんだ。バカにしたわけじゃない。最初からヤるつもりはなかったから、きいちゃんが知らなさそうなことを言っただけ」
「なんだ、そうだったんだ。もし、あたしが知ってたらどうするつもりだったの」
「いや、絶対知らないもん」
「なんで言い切れるの?」
「だって、コンドーム見てラムネって言う人だよ? 知ってるわけないじゃん」
「ああ、そんなこともあったね」
再会して、紫雨ちゃんの家で雨宿りしたときの話がすでに懐かしい。
「あれから、まだ一年も経ってないんだよね。なんかもう何年も前のことって感じがするよ」
「そうだよな。今となっては、あのとき転んでるきいちゃんに声をかけてよかったのかどうか、わからないけど」
「寂しこと言わないでよ。あたしはよかったと思ってるよ。もう一度、紫雨ちゃんに会えてよかった。あのときは緊張して言えなかったけど、助けてくれてありがとう」
改めてお礼を言うと、硬かった紫雨ちゃんの表情が少し綻んだ。
「いいえ。どういたしまして」
にやにやしながら、紫雨ちゃんはあたしの顎の下を撫でた。
「もう、またそれ? え、もしかして愛情表現?」
「ああ。そうかも」
「そういうことなら、どうぞ」
顎を差し出したら、丁重にお断りされた。
内心、紫雨ちゃんがこの時間をどう思っているのかはわからないけれど、笑顔が見られてあたしはほっとしていた。
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