紫の雨

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 冷えた体を温かいお湯に沈めると、気持ち良さにふわぁと声が出た。  一人で広い湯船に浸かっていると、忘れたい話が蘇ってきた。 『槇村さんのお宅に不特定多数の男性が出入りしている。息子さんの教育上よくない』 『男とも女ともヤレるけど、好きになったりはできないってこと』 『男連れ込んでるんだろってPTAから苦情言われたけど、あれ私じゃないからね』  無関係だと思っていた点と点は、一本の線で繋がっていた。  あたしも周りも、てっきりおばさんの異性関係が派手なんだと思っていた。  小学生の男の子である紫雨ちゃんが目当てだったなんて――それも、実の母親が相手を探していたなんて、考えただけで吐き気がする。  あの狭い団地の部屋で、紫雨ちゃんがどんな地獄を見てきたのか、平穏な家庭で育ったあたしには想像すらできない。  彼が誰にも言わずに引っ越す気持ちがようやくわかった。  歩いて五分ほどの場所から紫雨ちゃんがいなくなるのは耐え難い。でも、彼の秘密を知った今、行かないでなんて口が裂けても言えないし、言ってはいけない。  寧ろ、彼の自由を誰よりも祝福してあげるべきだ。  ようやく、おばさんの呪縛から解放されるのだから。  これから先、彼が歩んでいく未来に、たくさんの喜びと光が満ち溢れていますように。  そこにあたしはいないかもしれないけど、願わずにはいられなかった。
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