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お風呂から出ると、紫雨ちゃんはダブルサイズはありそうなベッドに寝転がり、スマホでゲームをしているようだった。
背を向けるようにして、隅っこに横になった。ベッドがひとつしかないので、今日は一緒に寝るしかない。
言わずもがな、あたしは君ちゃん以外の男の人と一緒に寝たことがないので、無駄に心臓がバクバクしている。
「電気消すよ」
灯りが消え、部屋に夜が訪れた。あたしの目はなぜか冴える一方だった。
これって、寝返りを打ったら体がぶつかる? 無意識に抱きついたらどうしよう。
取り越し苦労みたいな不安ばかり浮かぶ。
「きいちゃんは……なんにも訊かないんだね。昔のこと」
下らないことを考えていた自分が情けなくなるような問いかけに、心臓がきゅうと縮んだ。
「……だって、訊かれたくないでしょ? 紫雨ちゃんは、昔から自分のこと全然話さないもんね」
答えるために振り返ると、紫雨ちゃんがあたしの方を向いて寝ていたので、怯むほど近い距離にいた。
「話さないっていうか、話せないことが多かったから」
「ああ、そっか。そうだよね。もし、紫雨ちゃんが話して楽になるのなら話して。でも、言いたくないなら言わなくていいよ。あたしみたいな “温室育ち” には話しにくいだろうし」
「温室育ちって自分で言うんだ。潔いね」
「でしょ。紫雨ちゃんの心の声が聞こえたから」
「俺、きいちゃんのことそんな風に思ったことないよ」
芝居がかった口調で、紫雨ちゃんが言った。
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