変態

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変態

「お父さん、お母さん。今日は大事な相談があるの。あのね、あたし、S大行きたいとか色々言ったけど、高校を卒業したら出家しようと思う」  父はコーヒーを噴き出し、母はお箸からトマトを落とした。  晩ご飯のときだと君ちゃんがいるので、朝ご飯のときを狙い、夏休みにも関わらず早起きした。  きいなが早起きするなんて珍しいこともあるな。今日は雨かしらなんて暢気に言っていた父と母は、あたしの相談に度肝を抜かれたようだった。    平穏の意味を辞書で調べたら、そのうち例文として『浅丘家』が出てくるのではないかと思うほど、我が家は平穏無事を極めている。  あたしが生を受けてからこの十七年間、ドラマティックなことは何一つなかったし、夫婦関係はもちろん、姉弟関係や家族関係が脅かされる事件が起きた記憶もない。  イケダンでもエリートでもない普通の会社員である父と美魔女でもセレブでもない普通のパートタイマーである母。そんな二人のもとに生まれた由緒正しい普通の女子高生であるあたし。  特別美人でもなければ、グラビアボディでもない。勉強もスポーツも平均ど真ん中。  そんなあたしに、ダーツなら真ん中は高得点だよと言ってくれる心優しい秀才の弟。  すべて完璧だった。普通で平穏だけど、幸せだと胸を張って言える人生だった。  これから先も、波風が立つようなことが起こる要素はひとつもなかった。    あの日、幼なじみに再会するまでは――。
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