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「足、血が出てるよ」
「うん、そうみたい」
「そうみたいって。他人事みたいに。大丈夫? 立てる?」
「たぶん、大丈夫……痛っ」
立とうとして足に力を入れたら、膝じゃないところに強い痛みを感じた。足首でも捻挫したらしい。
いつまでも地面に座っているのは格好悪いし、とにかく立ち上がらねばと苦戦していると、紫雨ちゃんに抱きしめられた。
いや、びっくりし過ぎて表現をだいぶ盛った。実際は、抱きかかえられて自転車の荷台に座らされただけ。それでも、彼氏いない歴と年齢がイコールの女を混乱させるのには十分な刺激だった。
口を開けたら心臓がこんにちはしてしまいそうで、お礼も言えなかった。
狼狽えるあたしに構うことなく、彼は黙って自転車を押してくれている。
もしかして、転んだ拍子に死んだ? 膝の傷口を指でつんつんしてみたら、飛び上がるほど痛かった。どうやら生きている。痛みは生だ。
「さてと」
あたしを座らせたまま駐輪場に自転車を止めると、今度は背中を向けてきた。
「はい。乗って」
あの日と同じだ。そう思った瞬間に、太鼓みたいな鼓動がより一層激しさを増した。心臓が暴れている。
きっともう、紫雨ちゃんは忘れているだろうな。
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