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遠慮もそこそこに、数年ぶりに紫雨ちゃんの背中に乗った。開いた足の間に、見かけよりがっしりと逞しい背中を挟み、膝の裏に腕を通して抱えられる。おんぶってティーンエイジャーにはなかなか刺激が強い。
整髪料か香水か、あの頃とは違う人工的な良いにおいがしているし、なんだか落ち着かない。
もう立派な男なんだな、紫雨ちゃんは。高鳴る胸に切なさが込み上げる。
「彼女いるの?」って訊きたいけど、うんって言われたら下りなきゃいけないから、訊かない。
「懐かしくない? これ」
「え?」急に体を揺すられて、我に返った。
「もう忘れちゃった? 昔、きいちゃんのことおんぶしたことあったんだけどな」
「ああ、そんなこともあったね……へへ」
さっきまでおんぶのメモリーにどっぷり浸っていたくせに、白々しく笑ってみせた。忘れるわけがない。あれからあたしはずっと――。
「胸も大きくなったね」
「いやー、体重ばっか増えるけど胸はそんなに……って、え?」
「背中に当たる感触が昔とは違うからさ」
「や、やだ、もう。変なこと言わないでよ」
鏡を見なくてもわかる。あたしは今、間違いなく真っ赤な顔をしている。
あの頃はよたよたしてジョークを言う余裕なんてなかったくせに、色気づいたことを言ってあたしを動揺させる。
彼女、いなければいいのに。肩を掴む指に力が入った。
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