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「おばさん、いるよね? こんなびしょ濡れで入るのは申し訳ないな」
あたしをおぶったまま玄関の鍵を開けている紫雨ちゃんに確認する。
「いや、この時間はいないと思う」
久々におばさんにも会いたかったけれど、いないのなら仕方がない。
ん? ということは二人きり? こめかみに変な汗が滲む。
「一旦、テーブルに下ろすから」
家の中に入ると、書類やら着替えやら物が雑然と置かれた天板の見えない食卓テーブル下ろされた。部屋の雰囲気はあの頃のままだ。おばあちゃん家に来たような懐かしさがある。
「ごめんね、ほんとに。重かったでしょ」
「まあ、それなりに」
痺れたのか、腕をぶらぶらさせながら、紫雨ちゃんは苦笑した。
「よし、イスに移るか」
自転車の荷台に座ったときと同じように正面から抱きかかえられて、イスへと移動した。骨折しているわけじゃないし、テーブルからイスに移るぐらいは自力でできるけど、訊かれなかったので黙って甘えた。
好きな人に抱きしめられる機会をみすみす逃すわけにはいかない。
「タオル取ってくる」
そう言って、洗面所から戻ってきた紫雨ちゃんは、上半身裸で首からタオルを下げ煙草を銜えていた。
想像を軽く超える姿に、ぷしゅーと鼻から勢いよく湯気が噴き出した。あろうことか紫雨ちゃんがこちらに向かって歩いてくる。
いやいやいやいや。あたしはどこを見たらいいんだ?
銜え煙草のまま、取ってきた白いタオルで彼はあたしの髪もわしわしと拭き始めた。刺激が強すぎて、目が回る。
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