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「あそこで美也子さんに会えたから良かったものの、あの新田って弁護士は何なんだ」
藤島が忌々しそうに言う。二人の様子を想像して、奏が笑った。
「新田さんなら、今日も病院に送り迎えしてくれましたよ。不審者を見ませんでしたかって聞かれたけど、あれって藤島さんのことだったんですね」
「ったく、僕を不審者扱いするとは。君を怖がらせないために何も言わなかったんだろうけど、僕は未だにストーカーだと思われている」
藤島をストーカーと間違える新田も新田だが、そんな扱いを受けても、諦めずに捜し続ける藤島にも驚いてしまう。
「美也子さん、私と彼女との関係をあなたに話しましたか? 」
「あぁ、君のお父さんの再婚相手だってね、すごくできた方だった。新田さんが僕をストーカー扱いしたのを聞いて大笑いしてたよ。
僕と君のお父さん、雰囲気がよく似てるんだって? 」
「そうみたい。父と母が離婚してから1度も会わなかったから、私も父の遺影を見て驚いたわ」
自分では自覚がなかっただけで、大好きだった父を求めていたのかも知れない。
藤島を盗み見しながら、奏は改めて封印していた父への思慕を知った。
「しかし、あの弁護士は病院の送迎までして、どうしてそんなに君に肩入れしてるんだ? 」
信号で止まると、藤島が不機嫌そうな顔を奏に向けた。
「新田さんは、村瀬商事の顧問弁護士なんです。父の遺産相続の件でお世話になって、福岡に帰ってからもいろいろ助けてくれてるの」
「弁護士がそこまでするの、おかしくないか? 」
「変な邪推しないでください。彼が独立した時に父が会社を紹介したりして随分面倒をみたというので恩義を感じてるんですよ」
奏が慌てて弁解する。
「ほんとにそれだけならいいけど…… 。ところで、何で郵便物の宛先をここでなく『サンシャインコート』のままにしてるんだい?」
「それは、あなたに転居先を知られる可能性があるから変更しなかっただけです」
「へぇ~、君はそこまでして僕から逃げたかったんだ…… 」
藤島が悲しそうな顔で奏を見た。
「福岡まで逃げたのに追って来られたら、もう逃げ場がありませんから…… 」
「僕は諦めが悪いから、どこへ逃げても追いかけるよ」
「…… 」
奏は嬉しいような悔しいような想いで、隣の男を眺めた。
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