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もう、二度と藤島に抱かれることはないと思っていた。
それなのに今、奏は藤島の胸の中で愛されている。
妊娠中だからと優しく扱ってくれる藤島に身を任せ、幸福感の中を漂っていた。
藤島はこれまでも、奏が不安にならないように抱く時はいつも、「奏、愛してるよ」と花に水を注ぐようにたっぷりと愛の言葉を振りまいてくれた。
今も、放心して藤島に絡みついている奏に「僕に抱かれてる時の奏はホント可愛いよ。世界で一番可愛い」と囁く。
「この年で可愛いなんて、さすがに言い過ぎです」とまだ絶頂から覚めない頭で答える奏。
「本心から言ってるんだよ。初めて会った時、怒りながらおかしな宣言をしてた姿も可愛かったし、背が高いことや足のサイズを気にしてるのも可愛いかった。何より酔っぱらって絡んできた時。あぁそれから、僕を好きなくせに一生懸命避けようとしていたのも可愛くてしようがなかった」
「もう~、おかしなところばかり気に入ったんですね。でも、こんな私を好きになってくれてありがとうございます」
奏は、いつも注がれるばかりだった言葉を今度はシャワーのようにいっぱい浴びせ返そうと思った。
「響希さん、大好き。死ぬほど好きです。会った時から好きで好きで泣きそうでした。もう、世界で一番愛してます」
愛の売り尽くしセールのように愛と好きを大盤振る舞いする。
「ふふっ、そんなにいっぱい…… うん、僕も死ぬほど愛してるよ」
そう言うと藤島は奏を抱きしめた。
★★★★
二人がベットから離れた頃には、外は薄暗くなっていた。
「疲れただろう? 外に食事にでも行こうか? 」
シャワーを浴びて身支度を整えた後、夕食にはまだ早かったので、近くの広い池がある公園を散歩することにした。
池のほとりをデートするカップル、犬の散歩をする親子連れ、軽くランニングを楽しむサラリーマン。その中に交じって二人はゆっくりと歩いていく。
「今日、内見したあの家だけど、会社で契約するとなれば、君は今住んでる部屋を解約することになるけど大丈夫? 」
「そうね、福岡に来てから引っ越してばかりだわ私。でも、あなたと一緒に暮らすためなら解約します。それに、あの家なら、お庭でキャンプもできますね」
「そうだった。キャンプに行く約束してたね。でも、まずは婚姻届けを出さなきゃな。明日だと早すぎる? 」
恥ずかしげもなく恋人繋ぎをしてくる藤島。
「それはまた、早いですね。あなたのご両親に挨拶もしていないのに」
「それは大丈夫だ。事情はちゃんと話してるから、式は後日でいいんだ。ただ、赴任時までに既婚者でいたいんだよ」
「やっぱり会社的には、既婚者でないとまずいんですか? 」
「それもあるし、本社に戻っていろいろ手続きをしないといけない。それと結婚指輪をして赴任した方が、女性社員に言い寄られなくて済むからね」
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