十.

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十.

翌日、ざわざわと木立(こだち)を揺らす冷たい風が吹き付け始めた暗雲の下、参道を上り社に近付いてきた足音が、 「鍵が壊されてやがる!」 「糸巫女は!?」 異変に気付き扉を開け放った。 「てめぇは昨日の!」 「巫女に何をした!」 駆け込んだ若い男と村長が、社の中央で倒れている女と、その横に立ち自分たちを(にら)み付けている僕に、声を荒らげた。 「あなた方の虚飾(きょしょく)の村はもうおしまいです。 何ですか、その馬鹿みたいな腕時計は。 何百年も何人も、罪も無い者を犠牲にして富を得て、恥ずかしくないんですか」 「っるせぇ! てめぇには関係ねぇ!」 「この村の何を知ったか知りませんが、部外者は口を(はさ)まないで頂きたいですね」 と言いながらも、村長は左手首を装飾する大きな金の腕時計を背後に隠した。 「それよりてめぇ! 巫女に何したか聞いてんだよ!」 若い男が荒々しく床を踏み鳴らしながら僕に駆け寄って来た。 が、 「ぐあっ!? な、何……てめぇ……なんで、てめぇが……糸……!」 大きな赤黒い(へび)へと変形した僕の右腕に絡み付かれ投げ飛ばされ、床に転がりながら驚愕(きょうがく)の目を向ける。 「なぜ……! まさか巫女を殺したのか!? それで糸抜き様がお前に移乗(いじょう)して……!」 「いいえ……私は生きております」 倒れていた女が、静かに半身を起こした。
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