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十三.
「あれで上手く行ったのでしょうか」
抱きかかえられている腕の中で身を丸め、そっと僕の服にしがみつく彼女が、上目遣いに尋ねる。
「どうかな。
調べれば僕らの死体が崖下に無いことはすぐにわかるしね」
とは言え、再び変形した鹿の足で数時間は駆け続けている。
しばらくは追手も無いだろう。
あの時抜いた糸は糸抜き様ではない、ダミーの動物の糸だ。
そして地面すれすれでフクロウの翼を広げて降り立ち、クマの腕で彼女を抱えながら鹿の足で駆け出したのだった。
「でも、とりあえずは君を救えたからいいよ。
君はもう、ただの普通の人間だ」
糸抜き様の糸を喰った後、僕が最初に見たものは、光り輝く彼女の体だった。
その光が、これまで彼女が喰ってきた生物の糸、一本一本だと気付き、僕は彼女の全身からそれらを全て丁寧に抜き取り、空へと還したのだ。
僕に移した幾つかの糸を除いて。
「さて……この辺でいいかな」
周囲に人の気配などあろうはずも無い深い森の中で立ち止まり、彼女を降ろすと、改めて自分の額に手を当てた。
が、彼女が、そっとその手を握り首を横に振った。
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