十四.

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十四.

「糸巫女に選ばれてから、本当はずっと、考えておりました。 『糸抜き様』のこと」 「……うん」 何だろう、と思いながらも、彼女の真摯(しんし)な目に僕は(うなず)く。 「まず、糸抜き様を抜いてしまうともう糸は見えず、本当に糸抜き様の糸が消えるのかどうか、確かめられませんよね」 「あぁ、そう、だね」 たぶん消えるだろう、ぐらいのつもりでいたのだが……確かにそうだ。 「あなたなら、糸抜き様を悪用などしないと……信じます。 糸抜き様を確実に消せる方法が見付かるまで……もしくは、糸抜き様にはもっと別の、正しい用い方がある気がするのです。 ですから、それがわかるまで、あなたが糸を預かっては頂けませんか」 「えぇ? うぅーん……大丈夫かな」 首を(かし)げる僕に、 「私!私が……!」 彼女はふいの大きな声を上げ、 「私が、生涯をかけて、あなたのお(そば)でお手伝い致しますから……。 私、社で糸を抜き食べること以外、何もしてきておりませんし、戸籍も名前も、無いんです……。 外の世界に放り出されても、一人では生きてはいけなくて、あの、だからどうか……」 上目遣(うわめづか)いに僕を(うかが)った。 そうか、彼女は、あそこから解放されたからって、行き場があるわけじゃないんだ。 相変わらず、震えてる……。 あの村のやつらは、生まれてからずっと彼女を(おど)し傷付けて、逃げられないよう精神をも支配し続けてきたのだろう。 また怒りが()いてきた。 だが同時に、ほとんど僕の独善で事を進めたという責任もあるか、と今さら気付く。 「……わかった」 僕は大きく一つ深呼吸し、 「うちに使ってない部屋、あるから……。 そんなに広くないけど、あの社よりは(はる)かにマシだと思うよ」 額の糸から指先を離し、まだ僕の手を握ったままの彼女の手を、握り返した。 終
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