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三.
落下時にピッケルを失った僕は、翼の女の現れた崖の中腹をトレッキングで目指すことにした。
数時間後、山を大きく回り込み、豊かな田畑の広がる集落へと辿り着いた。
「こんな山奥なのに、すごいな……」
険しい山々に挟まれた平地に、緑の穂をいっぱいに輝かせる田んぼ、その周囲には桃、ブドウ、柑橘などの果物がたわわに実り、僕の所までほのかに甘酸っぱい香りを漂わせている。
その合間合間には、邸宅、とでも呼ぶような大きな屋敷が数軒見受けられた。
と、
「これは珍しい、外からのお客様ですね」
その邸宅の一つの庭先から、一人の中年男性が顔を出し、僕に笑みを送った。
「こんにちは。
えと、すみませんが……」
ちょうどいい所にと、さっきの女のことを尋ねようとした。
が、その男性に続きどこからともなく集まり始めた数人の男たちが、同様に笑みを浮かべながらも遠巻きに僕を眺める。
何か背筋のざわつきを覚え、
「ちょっと……あの辺りに棲息すると聞いた珍しい鳥を探しておりまして……」
翼の女が現れたであろう山中を指差しながら曖昧に尋ねた。
一瞬、男たちは顔を見合わせたが、代表格と思われる恰幅のいい初老が進み出ると、
「このような山奥ですから珍しい鳥もおりましょうが……あの辺りは足場も悪く人が入るには大変危険ですし、ちょっとわかりませんねぇ」
笑顔で首を振りながらも目線は僕から逸らさない。
「それよりまさか、歩いてここまで?
この村には宿も大した店もありません。
早めにお帰り頂いた方がよろしいでしょう。
最寄り、と言っても車で二時間近くかかりますが、駅までお送り致しますよ」
いつの間にか若い男が回してきた白い高級外国車を示した。
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