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五.
そこには、朽ちかけを何度も修復したような古い社があり、中から獣の鳴き声のような、蠢きのような、女の苦悶のような、不穏な音が絶えず耳を突いてきた。
正面入口の外で段差に腰掛けている若い男が、
「ったく、うるせぇな!
大人しくしてろよ!」
しかめ面で舌打ち混じりに立ち上がり、
「昼飯食ってくんから、適当に寝てろよな」
言い捨て、細い参道を下って行った。
完全に足音が消えてしばらくの後、僕は潜んでいた茂みから抜け出し、入口の反対側にある窓からそっと社の中を覗き見る。
そこには、床に突っ伏し苦しげにのたうち這い回る、女、のような……。
いや、女と思われる人間の体を基に、全身が次々にあらゆる動物や虫の部位に変化し変形し蠢く、異形の生物、のようなもの……があった。
「な……!」
思わず声を上げてしまうと、生物はびくっと震え静止した。
そしてかろうじて人間のものと思われる首がゆっくりとこちらを振り返り、僕と目が合う。
あぁ、あの女の瞳だ。
思った矢先、その異形の生物は瞬時に動物の部位を消失させると、一糸纏わぬ若い女の姿となった。
女は壁際へ身を寄せ縮め、脱ぎ捨てられていた白い浴衣を被ると、恐る恐る、僕の方へ上目遣いに視線を向けた。
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