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七.
「つまり、君、糸巫女は」
「だめ、隠れて」
瞬時に人の姿に戻った女の声に、はっとして口を塞ぐと、遠くから参道を登ってくるいくつかの足音が耳に届いた。
息を潜めて身を縮め、壁板に見付けた木の割れ目から中の様子を窺っていると、やがてさっきの若い男と昨日の村長が外鍵を開け入ってきた。
「珍しいな、今日は普通の人間の姿をしてるのか」
「さっきは全身大暴れだったんですけどね」
二人に向かって膝を揃え深々と頭を下げている女を一瞥し、若い男が口の端を歪めながら、抱えていたケージを床に置く。
「こいつはセンザンコウと言ってな、哺乳類だが全身が硬い鱗で覆われていて、いかなる猛獣の牙も通さぬのだとか。
これでまた村もさらに強固に守られよう」
「激レアだぜ、気合い入れて喰えよ」
二人は、狭いケージの中を落ち着き無くぐるぐると回っている中型犬ほどの生物を嬉々とした顔で見下ろし、女に顎で示した。
センザンコウは、その外見の珍しさから密猟が激しく絶滅の危機に晒されている、輸入規制種だ。
何か特別なコネでこっそり手に入れて来た、って所か。
そう言えば、幼い頃に見たセンザンコウの剥製が、レア生物ハントなんてものに興味を持ったきっかけになっていたのを思い出す。
が、僕は観察専門、密猟など許し難い。
怒りに拳を握り締めつつも目を凝らしていると、女が座したままおずおずとケージの前へ進み出てきた。
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