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八.
「あまねく散り散りに形造られし万殻よ、その生を糸と為し、我にて一つに紡がん」
唱えた女がケージの中に手を伸ばすと、ぐるぐると回っていたセンザンコウがふいに大人しくなり女を見据え、女はその額の手前で空中の何かを指先でとらえるような仕草を見せた。
そして、一気に引き抜く。
「糸、だ……!」
女の指には、白金にきらめく長い糸が揺らめいていた。
ケージの中のセンザンコウが、身じろぎ一つせぬまま倒れる。
女は指先の糸を宙に踊らせると、口へ運んだ。
ごくり、と嚥下の音が社に響く。
次の瞬間。
「あぁあぁあぁっ!」
女が叫び声を上げ、弾けるように仰向けに倒れ込み体を激しく震わせた。
その勢いではだけた浴衣から見える女の肌は、
「セン……ザンコウ……か……?」
黒光りする鱗の鎧に覆われていた。
「ははは、よしよし、これであと三糸か。
『身籠りの儀』ももうすぐだな」
「次は誰に『移乗』するんスかねぇ。
うちの身内に来ねぇかなぁ。
そしたら俺もついに家とかでけぇ車、買えんぜ」
床をのたうって苦悶の声を上げ続ける女を捨て置いたまま、二人は社を後にし、参道を下りていった。
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