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始まり
名もない山奥にひっそりとある寂れた神社
神様の通り道である石畳の直ぐ脇には木の根や雑草が生い茂っていて、手入れも何もされていない社は朽ちかけていた
そこへ黒い羽を羽ばたかせながら一羽の鴉が、一つだけある大きな鳥居の上に止まる
薄汚れた赤い鳥居の上で一声鳴く
赤い目で辺りを見渡す鴉はもう一度大きく鳴いたかと思うと、鳥だった体がぶれて次第に別の形へとなっていく
黒い翼はそのままに、白い綿に似た飾りがふわりと浮いた
数秒後、鴉がいた場所に現れたのは白い髪を高く結い上げた一人の少年だった
あたりを見渡す頭には頭襟をつけ、しゃがみながら下を覗き込んだその手に身の丈よりも長い錫杖を持ちながら不機嫌そうに口を開く
「ったく、誰だよこんなんなるまでほっといた奴。神社とか毎日手入れしろって言わねけけどさ、これは酷すぎじゃねぇ?」
イライラしているのか口から漏れる言葉は棘が含まれている
見下ろす眼下には雑草が生え放題となり、高く作られた床の下には動物が根城にしていた
鳥居の上からふわりと飛び立つ
背中の羽をゆるく羽ばたかせてふらつくことなく着地した石畳ですら、苔と土汚れでほとんど見えなくなっているのだから、少年の心情も分かることだろう
神の通り道と言われる真ん中を我が物顔で歩いた先、不自然な空気の揺らぎを感じ取った少年は眉をしかめた
「…?あー、何だ、これ。どこら辺だ?」
境内に入って辺りを見渡しながら角を曲がった先、見てはならないものを見る
ねじ曲がった境界
空間がまるで捩れるかの様にゆらめいては止まってを繰り返すその中心に、青く輝く渦と、奥に見慣れない陣が薄らと輝いていた
「……は、何これ」
少年は興味本位で手にしていた錫杖ごと腕を中に入れてみようとするも、すんでのところで止める
これに触れ、何かが起きたらどうすると
どう見ても自分の手に負えないことは明らかだった
「……」
今少年がいるのは現世の写し鏡
世界の裏側と言われている場所だが、自らが住む日の本にはこのような得体の知れない物は存在しない
それに…西洋の魔術師、魔法使い連中ですらこんなものは使わないだろうことはいくら魔術や魔法に疎い少年でも察することができた
いつからここに口を開けているかも分からない
どうしようかと迷った末に、あまり頭の良くない自分が考えても分からないと開き直り高く空へと飛び立った
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