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山奥の小さな集落
その中心にある、およそ山村には似つかわしくないほど立派な日本家屋に、空から舞い降りる人影があった
木の葉を散らすように庭に立った人影に、ふわりと風鈴の音が静かに鳴る
「どうかしたの?」
「若沙!ちょっと見て欲しいもんがあんだけどさー」
突然の旧友の訪問と、彼があまり口にしないようなふわりとした曖昧な内容に首を傾げながら筆を置いたーー
「それで、うたの言っていた青い渦はなんでしょうね」
「知らねぇから呼んだんじゃん。俺よりも歳食ってんだろ?…っ痛!頭はたくことないじゃんかよ!」
「おだまりなさい。歳食っているだなんて言われてあまり嬉しい言葉でもないのよ。せめて長生きと言いなさいな」
1度その場を離れた少年は数刻後に人を連れて戻ってきていた
空からではなく歩いて
頭の上で手を組むようにして歩く少年とは対照的に、おしとやかに足を動かしているのは女だった
桃色の振袖に赤い袴、帯に扇子を差しながらブーツに包まれた足を動かし少年の後をついてゆく
腰上まで伸びている長い黒髪が風に揺れる
女は口をへの字に曲げる少年のことを仕方がない、とでも言うような目で見る
彼女も同様、人ではないことは頭に生えた小ぶりな耳と角が物語っていた
少年が先導するように前を歩いて、青い渦のあった場所まで案内する
ただ、早足で歩いても後ろからついてくる歩みは遅いのだが
「そんなに焦らなくとも、逃げはしないわよ。…遅くなるようだったら置き手紙をしてくるべきだったかしら。華南、まだ帰ってないのよ」
「だいじょーぶだろ。見るだけだし」
「そうだといいけれど……見えたわけではないのに嫌な予感がするの」
「うへぇ……若沙の嫌な予感って当たるからやなんだけど」
「私だって嫌です。そんな危険な場所に好んで行くほど酔狂じゃないもの。貴方もでしょう?」
「思わないなー」
「ほらみなさい」
二人で無駄口、軽口を叩いて道を外れ砂利を歩いていく
そしてつい先ほど見つけた青い渦のところへと着くと、若沙以外に三人の人影があった
「うた!」
「あれ、何でいんの?」
「…は?いや、思い出せ。そもそもここで落ち合う約束だっただろう」
「あ?あー、そういやそうだったっけ?なんかそれの事で頭から抜け落ちてた」
「お前な……」
話し始めた男は金色の短髪を掻きながら呆れたようにため息をつく
その隣には昔ながらの装束を身に纏い顔を面布で隠している大男が明後日の方向を見て立っていた
二本の角が天に向かって生えている
「仕方がないよ。うたは鳥頭だから」
「誰が鳥頭だって!?」
「だってこの前教えた事、1日立ったら忘れてたから。いつものことだし」
最後の一人は柱に寄りかかるようにして座り込み、雅楽代を揶揄うようにやじを飛ばす
真顔だったが
和服ではなく、普通の青いパーカーと7部丈のジーンズを履いたような姿で着物ばかりの中ではかなり浮いていた
だけれども黒髪の隙間から見える目に光はなく、見知った顔を見て目を細めた
「詠羅はともかく、なんでじーさんまでいんだよ」
「なぁ、うた。お前なんかした?おい第一発見者」
「は!?してないし。俺が来たときからあったんだよそれ。ってだからー何でじーさんもいるんだよ!」
雅楽代と呼ばれた少年に向かって呆れたような目を向ける
いつも何かしらの原因になっているこいつの事だと思い口にしたが、すぐに違うと返されて的が外れた
「いやあ…俺も見たことなかったから。ほら、俺よりも長生きだろ?腕は」
「だから遊巴と思考が似通ってるって言われんのか……」
雅楽代はさっきの自分と同じような返しをされ、がくっと肩を下げた
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