1プロモーション漫画

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1プロモーション漫画

「私が、プロモーション漫画の原案を考える?」 「そうそう、うちもだいぶ大きくなってきたでしょう?大手には敵わないけど、地元では名の知れた結婚相談所になりつつあると思うの。だから、今回、もっと登録者を呼び込むために、プロモーション漫画を依頼することにしたわけ。その原案を考えて欲しいの」 「広報担当者でもない私では、役不足です」 「いやいや、会社の未来は社員全体で考えないと。それに、社長自ら、人見さんに頼んでいるんだよ」  私は、結婚相談所でカウンセラーとして勤務している。日々、結婚を考える人々のサポートをして、最終的に彼らが成婚するのを見届けるのが仕事だ。そんな私がなぜか今回、広報がするような仕事を任されることになった。 「漫画と言っても、さすがに漫画家でもないあなたに、漫画そのものを書いてもらうわけではないから安心して。とりあえず、漫画の原案を考えて欲しいの」 「はあ」  詳しい話を聞いてみると、そこまで難しいことではなさそうだった。そして、どうやら、私以外の社員にも漫画の原案を考えて欲しいと頼んでいるとのことだ。最初からそれを言って欲しい。 「漫画を読んで、少しでも多く結婚を考えている人が弊社に入会してくれたらと思って。日々、カウンセラーとして働いているあなたたちなら、たくさんの成婚体験談を知っているでしょう?その中の選りすぐりのモノに、少しの刺激を加えてくれればと思うの」 「ワカリマシタ」  自分が担当した女性たちが「成婚した」と報告してきた様子を頭に思い浮かべる。幸せそうな笑顔、恥ずかしそうな笑顔、将来が楽しみだという笑顔、たくさんの笑顔を見てきた。いったい、誰のことを元にストーリーを組んでいこうか。いや、成婚していない彼女たちのことを元にしても面白い。  社長からプロモーション漫画の原案を依頼されてから、一週間がたった。ある程度の原案が出来上がり、仕事がひと段落したら社長に提出しようと思っていた矢先のことだ。 「人見さん、私の会社の同僚で面白いことになっている人がいるんだけど」  その話を持ち掛けてきたのは、私が担当している32歳の女性だった。カウンセラーとして、電話でお見合いの進捗状況を確認していたら、突然、彼女の同僚の話になった。この女性は相手の男性と仮交際が終わり、真剣交際に入ったところだ。今から正念場という大事な時期に入ったお客様である。  結婚相談所のルールとして、お見合いをして双方が気に入れば仮交際、その後、その相手と結婚を見据えての交際に進展すると、真剣交際という流れに進んでいく。彼女の相手は、なんと高校時代の元カレらしい。お見合い写真を見て、元カレだと気付いて申し込みをしたら、相手が了承した。そして実際に会ってみたら、高校時代の話で盛り上がり意気投合したようだ。  そんな彼女が話す、面白いことになっているという同僚とは。 「それは聞きたいですけど、先に佐々木さんとお相手のことを決めていきましょう」  気になるところだが、今は仕事中だ。世間話をするのは、多少はありだと思っているが、さすがにそれがメインになってしまっては、カウンセラーとして失格だ。まずは自分の仕事である婚活のサポートをしていこう。 「……ということで、めちゃくちゃ面白いことになっているでしょ?まさか、シズが私みたいに、元カレと結婚相談所で再会するなんて思わなかった」 「はあ」  確かにその話がもし本当だとしたら、とても興味深い内容だった。結婚相談所のプロモーション漫画を頼まれていなかったら、ぜひ本人に話を伺って、その体験を漫画家に頼んで漫画で読みたいくらいだ。それくらい内容がドロドロで、間違っても結婚相談所の宣伝には使えない代物だった。  ちなみに、私が原案として提出する内容は、佐々木さんのことを参考に作った。元カノと再会するという偶然な出会いから始まる物語で、我ながら良い話になったと思っている。 「それで、シズに人見さんのことを話したら、ぜひ相談に乗ってほしいと言われたんだけど、そういうのって無理かな?」 「シズさんという方は、弊社の相談所に登録していた方ですか?」 「いいや、他の結婚相談所。私たちは会社の同僚で、お互い、結婚相談所に登録していたことに気づいたのは最近でさ。私はもうすぐ成婚できそうだから、仲の良いシズに話したんだ。そうしたら、今の話が彼女の口から出たってわけ」 「別の相談所だと厳しいですね」  結婚後のフォローもうちの会社では行っているが、さすがに他社の相談所のフォローはしていない。業務外になってしまうので、お断りするしかない。とはいえ、本人から話しを聞けるチャンスだ。 「佐々木さんもその場に同席していただけるのなら、話だけは聞いてもいいですけど」 「さすが人見さん!じゃあ、シズに都合の良い日を聞いておくね。人見さんのお休みは、アプリのお知らせ欄に書いてある日でいいよね?」 「大丈夫ですよ」  そんなわけで、私は佐々木さんの会社の同僚「シズさん」の話を聞くために、休みの日に会う事になった。仕事の事はいったん、頭の片隅に置いておくことにした。  
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