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「なんだ。こんな間近で話しているのに、まさか聞こえていないとでも? お前は、耳が遠いのか?」 「違う! ちゃんと聞こえてたわ! ただ、あんたが言ったことを咀嚼する時間が欲しかっただけだ!」 「そうか。ならば、お前が咀嚼できるまで待てば良いか?」 「……いや、もういい。必要ない。つまり、大尉殿はそもそもの初めから俺に好意を持っていた、と理解していいのか?」  上官の言葉を信じていない表情をしていたのに、まだまだ説明が必要かと奏人が長期戦を覚悟したところで、花宮軍曹はずばりと正答を突きつけてきた。 「あぁ、その通りだ」  奏人が公私ともに見込んだ部下は、奏人の告白が彼の真実なのだとすぐに悟ってくれたようだ。 「へぇ、その通り、ね……待てよ。じゃあ、やっぱり俺は最低なやつってことじゃねぇか! 好意を持ってくれてた人に、何ヶ月もあんな仕打ちをっ……!」  理解が早くて助かる、と安堵したのも束の間、再び部下が頭を掻きむしり始めた。せっかく互いの気持ちを擦り合わせられたと思ったのに、時が戻ってしまったかのよう。 「花宮」  これではいけない。 「いいんだ。全てを承知の上で、私が受け入れた。『いずれ帝都に戻る私には一つの傷も許されないから、二人だけの秘密にしてくれ』と、お前を共犯にした。帝都に戻るつもりなど、全く無いのに」 「……は?」
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