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 何度目の「は?」を、奏人は聞いただろうか。  やはり説明を追加せねばならない、と言葉を重ねたら、またもや部下の戸惑った声を聞く羽目になった。  どうして、自分はこんなにも他人と関わるのが下手なのだろう。だから、今まで誰とも深く付き合うことをしてこなかった。  しかし、落ち込んでいる暇は無い。戸惑わせたなら、それを振り払えばいいのだ。 「はなみ……」 「帝都に戻る気、無いのかっ?」  もっとちゃんとした説明を、と気合いを入れた奏人の声は、ものすごい早口の低音にあっさりと断ち切られた。 「あ、あぁ、そうだ」 「本当に? ということは、ここにずっといるってことか? 嘘じゃねぇよなっ?」 「嘘ではない。これは、本心だ」 「でも、今上帝の祝賀式典で帝都に行くんだろ? そのまま参謀本部に転任するってことは」 「無い。式典には参列するが、煩わしい付き合いが多い帝都になど、戻りたくない。転任の件はとっくに断った。その上で、新たな任務を辺境騎兵連隊の隊長として受けている」 「つまり、あんたは今後も俺たちの連隊長ってことだな? よしっ!」  とても珍しい、朗らかな笑顔をひらめかせた花宮軍曹を目にして、奏人は軽く口を開けたまま言葉を探す。けれど適当な言葉は見つからず、ただ相手に見入ってしまう。
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