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 自分が帝都に戻らないことを、こんなに明け透けに煌が喜ぶとは思っていなかった。  その表情を見て、有り得ないほどに胸が引き攣れ、鼓動が速まっていることに、大いに戸惑っている。  これが、相思相愛がもたらす微細な感情というものか。初めて知った。  花宮煌は、土岐奏人にとって、淡い片恋の相手だった。  けれど、両想いは、小説の中で他人事として想像していただけの未知の感情。それが自分の内側を甘く掻き乱しているのだと、奏人ははっきりと自覚した。  もう、手放せない。 「私を『好きだ』と言ってくれたお前に、私も告げよう。花宮煌、お前を愛している」  付き合い下手で、孤高に生きるしかなかった欠陥人間に惚れてくれた男を決して逃したくないから、奏人は心のままに告白した。 「あ、愛……あの大尉殿がこんな熱烈な……え? これ、夢?」  常に冷静、超然としている上官からのストレートな言葉は、彼への恋を自覚した部下に途轍もなく大きな衝撃を与えた。 「大尉殿。あんたって人は、なんで俺より数段も格好良い告白するんだよ。全く……俺もです。俺も、あなたを愛してます」  厳しい環境の辺境で、一兵卒からの叩き上げで第一分隊長にまで上りつめた花宮軍曹から大胆さとふてぶてしさを奪い去り、ただただ真摯な態度だけを引き出した。  土岐奏人を前にした時だけ、彼限定で発現する甘く蕩ける恋の言の葉である。
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