25人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ
3
「では、来月の式典絡みで私の転任の噂を耳にしたと?」
「そうですよ。いずれ帝都に戻るって、あんた自身から聞いてたから、まんまとその噂を信じた。『こんなに早く帰る予定だったなら、なんで俺に言ってくれなかったんだ』って悔しい気持ちと『裏切られた』って恨む気持ちが綯い交ぜになって、そこでようやく大尉殿に惚れてることに気づいた」
「なるほど。それでは、噂の出所らしい通信部の者を特定するのはやめておくか。お前から告白してくれたのは、その者のおかげと言っても過言ではないからな。処分するのは、やめておく」
「待て。そっち? 詳しい経緯を聞きたいって言ったのは、情報源を特定するためだったのかよ。俺とすれ違ってた部分を確認するためじゃなく? そっちが目的?」
「いや、情報源の特定は、ついでだ。私以外に実害が無いなら、ひとまず見逃す。私にとっての本題は、こっちだ」
「うおっ!」
「口づけの後は、何から始める?」
会話の場所を寝台に移した後も淡々としていた上官だったが、会話に区切りをつけた途端、甘い雰囲気になった。
寝台の縁に並んで腰掛けていた煌を押し倒して軽い口づけを仕掛けてくる、という初めての行動を見せたのだ。
不思議な気分だ、と煌の胸が騒ぐ。俺の上官は、土岐奏人とは、こんな濡れたような目で見つめてくる人だっただろうか。
「口づけの後? そんなの、決まってる。今度は、俺からの口づけを堪能してもらう」
「んっ」
想い、想われて、恋を紡ぐ。まずは、この時間を堪能したい。
最初のコメントを投稿しよう!