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「では、来月の式典絡みで私の転任の噂を耳にしたと?」 「そうですよ。いずれ帝都に戻るって、あんた自身から聞いてたから、まんまとその噂を信じた。『こんなに早く帰る予定だったなら、なんで俺に言ってくれなかったんだ』って悔しい気持ちと『裏切られた』って恨む気持ちが綯い交ぜになって、そこでようやく大尉殿に惚れてることに気づいた」 「なるほど。それでは、噂の出所らしい通信部の者を特定するのはやめておくか。お前から告白してくれたのは、その者のおかげと言っても過言ではないからな。処分するのは、やめておく」 「待て。そっち? 詳しい経緯を聞きたいって言ったのは、情報源を特定するためだったのかよ。俺とすれ違ってた部分を確認するためじゃなく? そっちが目的?」 「いや、情報源の特定は、ついでだ。私以外に実害が無いなら、ひとまず見逃す。私にとっての本題は、こっちだ」 「うおっ!」 「口づけの後は、何から始める?」  会話の場所を寝台に移した後も淡々としていた上官だったが、会話に区切りをつけた途端、甘い雰囲気になった。  寝台の(へり)に並んで腰掛けていた煌を押し倒して軽い口づけを仕掛けてくる、という初めての行動を見せたのだ。  不思議な気分だ、と煌の胸が騒ぐ。俺の上官は、土岐奏人とは、こんな濡れたような目で見つめてくる人だっただろうか。 「口づけの後? そんなの、決まってる。今度は、俺からの口づけを堪能してもらう」 「んっ」  想い、想われて、恋を紡ぐ。まずは、この時間を堪能したい。
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