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 突然死した高齢の大佐の後釜として辺境騎兵連隊に赴任してきた土岐奏人大尉は、二十六歳という若さと、常に無表情で、無駄口を許さず会話を終える素っ気なさが部下たちの顰蹙を大いに買った。  湯川中将を伯父に持ち、可愛い甥に現場での経験を積ませたい中将のゴリ押しで辺境にやってきた奏人は、お高く止まっているエリートの坊ちゃん、とすぐに煙たがられることになったのだ。  期限付きの赴任を終えたら、すぐに他部署に栄転する予定らしい、との噂が奏人の赴任直後から吹聴されていたのも、彼を色眼鏡で見る者が一気に増えた原因でもある。  辺境騎兵連隊において第一分隊長を務めている花宮煌軍曹も、各分隊長と連隊長との会議の席で、他人を寄せつけず、誰とも信頼関係を築く気が無さそうな奏人の言動にむかついた一人だ。 「けっ! にこりともしねぇお綺麗なツラで、俺たちを見下してんじゃねーよ。腰掛けのつもりで赴任してきた上級貴族のお坊ちゃんが、俺ら辺境騎兵連隊の陣頭に立てるわけねぇだろ。戦場、舐めんなよ」  第一分隊が管轄する区域は駐屯地の外れにある。切り立った崖沿いに細い川がくねくねと蛇行しており、せせらぎの音にかぶせた煌の毒づきは誰にも聞かれていない。  分隊の兵士が二人一組で行う夜間の見回りだが、分隊長の煌は単独で見回るのが常だからだ。  よって、〝それ〟に気づいたのも、煌一人。 「……っ、ぁ」  くぐもった声。わずかな衣擦れと、水音。 「はっ……は、ぁっ」  水音は、川のせせらぎではない。くちゅくちゅと淫らに濡れた音だ。熱い吐息が付与されているから、これはもう疑う余地がない。
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