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「全く。どいつだよ。こんなところで、やらかしてる阿呆は」
少なからず、腹が立った。自分はこんな深夜に駐屯地の見回りという地味な仕事をこなしているというのに、こともあろうに煌の管轄地で卑猥な行為に及んでいる輩がいる。
許せるわけもなく、当然の義務として犯人探しをすることにした。
普段の煌ならば、同じ兵役に従事する者としての温情で見て見ぬふりをしてやるところだが、今夜は虫の居どころが悪い。
行為の真っ最中に怒鳴りつけてやろう。寿命が縮む思いくらいはさせてやる。と決めて、草むらに分け入った。
「なっ……」
犯人探しを始めてから、一分後。二十九年の生涯で、顎が外れるほどの驚愕というものを、煌は初めて経験した。
「こいつは、たまげた。例の、いけすかない坊ちゃんじゃねぇか」
月明かりが柔く照らす茂みの中で自慰に耽っていたのは、癖のない濃茶色の髪を持つ痩身。辺境騎兵連隊の隊長、土岐奏人大尉だった。
そして、望んではいなかったが、出歯亀よろしく上官の淫らな姿をじっくりと観察することになった煌に、ある衝動が湧き上がる。
「大尉殿」
「……花宮軍曹、か?」
我に返った時には、あられもない姿を晒している奏人の前に立ち、呼びかけていた。
直後、大きく肩を震わせた相手が煌の名を口にする。
暗がりでも、目を見開いたその顔が青ざめていることを見て取り、知らず、煌の唇が弧を描く。満足と嘲り、相手より優位に立った者が見せる黒い笑みだ。
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