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「大尉殿。大尉殿は、駐屯地内にご自分の噂が広まっていること、ご存知ですか?」 「うぁっ」 「いわゆる、良からぬ噂というやつですよ。まさか、全くご存じない?」 「はな、みや、っ」 「その噂、朝飯が終わる頃には新たなネタが追加されて囃し立てられることになるでしょうな。——規律に厳しい連隊長が、誰に見られるかわからない屋外で服を脱ぎ、淫らな痴態で男を誘っていたんですから」 「誘って、など……ぁっ」 「どうです? 口さがない噂雀どもが喜んで恥ずかしい噂を広めた後、皆が大尉殿を見る目がどう変わるか、わかりますか?」  相手がろくな返事ができないと承知の上で、煌は問いかけを重ねる。 「え、わからない? あぁ、腰掛け程度の覚悟で辺境に来た青二才には難しい質問でしたか。仕方ない。懇切丁寧に説明して差し上げますよ」  奏人の声が続かないのは、煌がその人の急所をきつく握っているせいなのだが、そんなことは知らないとばかりに、ボタンが二つ外れた首元に唇を寄せていく。 「娯楽が少ない兵役ですからね。皆が、あんたの身体を欲して群がりますよ。俺のように」 「ああっ」  なぜ、こんなことをしているんだろう。なぜ、俺はこんなことを言っているのか。煌は、自分のことがわからない。  全くわからないが、騎兵連隊の頂点に立つ土岐大尉の首に自分が噛み痕を残したことは明白だ。 「ははっ。気持ちいいんですね。すぐに硬くなってきた」  わからないついでに、性器も揉みしだいておく。普段は全く隙のない身なりをした孤高な上官が、シャツの襟を緩くはだけている上に、ずり下がったズボンからは下着も肌も全てが丸見えなのだ。  一目で高級品とわかる眼鏡が良く似合う怜悧な面立ちとの落差に、煌の中の『男』が劣情を掻き立てられた。
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