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 これ以上は一時の気の迷いだと言い訳できない。  脳内で自分の声が響くが、煌の口も手も一向に止まらない。 「ぶすっとした無表情でいつも俺たちを見下している連隊長様がこんなに淫蕩な性質だと、皆に吹聴されたい? それとも、俺とあんただけの秘密にする? その場合、あんたは俺の玩具だ。俺はあんたが嫌いなので、どっちでも構わない。好きなほうを選んでいいですよ」  気に入らない、と常々思っていた上官の弱みを握った。  下級貴族の自分が上級貴族のご子息様を手玉に取れる機会は、今だけだ。こんな楽しいこと、みすみす逃せない。  煌の思考が暗く澱み、歪んでいく。 「……皆に、このことを知られるのは困る。秘匿してくれ。いずれ帝都に戻る私には、一つの傷も許されないのだ」 「決まりだ。じゃあ、契約の証に、今、あんたがやってたことを俺にもしてくれよ」 「私が、お前に?」 「できるだろ? 手筒で扱くだけだ。何なら、あんたのと一緒に兜合わせにするのでもいい。というか、あんたは俺の玩具で、俺に奉仕する立場になったんだから、つべこべ言わずにやれよ」 「わかった。やる。但し、拙くても文句を言うなよ。他人にするのは初めてだ」 「俺が初体験か。それは気分が良いな」  一部の部下たちから『凄みがあって、ぞくぞくする』と熱く褒められる野生的な笑みを零し、花宮煌が手を差し出した。その手を取った土岐奏人は、日本人形のような硬い無表情。 「いいか? 今後、俺には絶対服従だぞ。従順な奉仕者でいれば痛めつけたりはしない。あんた、無駄に綺麗な顔してるから、穢し甲斐があるのは否めないが」  涼やかな夜風が吹く仲秋。輝く望月が立会人となって、禁断の隷属契約が結ばれた。  かたや、歪んだ支配欲からの脅迫。もう片方は、外聞を守るための取引。  これが、ほんの偶然から紡がれることになった、彼と彼の物語。
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