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気付いてしまった
昼休みが終わり、竹田君と何も話せないまま5時間目が始まった。
この授業が終わったら、ちゃんと謝ろう。
心に決めて授業がら終わるのを待つ。私は板書ができないから授業は全部ボイスレコーダーで録音している。授業が終わった瞬間ボイスレコーダーをオフにした時、手が滑り床に落ちてしまう。
こんな時に限って!
慌てて探したけれど、ボイスレコーダーはなかなか手に当たってくれない。
どうしよう……。
焦りだけが増していく。
「探してるん、これやろ?」
探していたボイスレコーダーを竹田君が拾い、手渡してくれた。
「あ、ありがとう……」
俯いたままお礼を言う。
「あ、また喋ってくれた。よかった〜。怒ってたから、もう喋ってくれへんのかと思ったわ〜」
竹田君の安堵の声で、私もホッとする。謝るなら今しかない。
「あのね、ちょっと話があるんだけど、今いい?」
「いいけど、改まってどうしたん?」
「あのね……」
話し出した時、
「竹田〜、美希ちゃんが怪我したって。でな、今から病院行くねんけど、美希ちゃんがお前と一緒がいいって。どうする?」
クラスメイトの声がした。
「怪我!?すぐ行くわ」
竹田君がカバンをひったくる音がする。
「話あるっていってたけど、急用?もしちゃうかったら、あとでもいい?」
明らかに竹田君は急いでいる。
「急じゃないから大丈夫。早く行ってあげて」
「ほんまごめんな。あとで絶対聞くから」
「本当に気にしないで。ほら早く行かないと」
竹田君の背中を押す。
「ありがとう」
竹田君が駆けていく。
ああ、行ってしまった……。
自分で「行ってあげて」っていっておきながら、いざいなくなると胸が痛い。
この感情、ドラマで演技した時、監督に何度もやり直しさせられたっけ……。
監督がしてほしかった感情の揺れって、こうだったんだ。
私ははじめて知った。一緒にいると心地よかったり、胸がポカポカしたりザワザワしたり、チクチクしたり頭がぐちゃぐちゃになるけど、それでも一緒にいたくなるんだ。
ー私は、竹田君に恋をしたんだー
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