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出会い
ある朝起きたら突然、目が見えなくなっていた。
「理沙ちゃんが仕事しばらくお休みして神戸で暮らすって、やっぱり突然目が見えなくなったんが原因?」
転校日早々、私の周りには人だかりができているようだ。
「もともと高校二年生になったら勉強に専念したくて、大学受験が終わるまでお仕事はお休みしようと思ってたの。そんな矢先、突然目が見えなくなってしまったから、有名な眼科の先生がいらっしゃるここに来たの」
仕事の時と同じ笑顔を作ってみる。一瞬、周りが息を呑む気配がした。
「やっぱりめっちゃ可愛い〜」
周りの女の子から「キャーッ」と黄色い悲鳴が上がる。
「そんなことないよ。でもそう言ってもらえて嬉しい。ありがとう」
丁寧にお礼をいう。
「理沙ちゃん、めっちゃいい子〜」
誰かが私の手を握り、ぶんぶん振る。同級生の女の子とはいえ、暗闇の中、見ず知らずの人に急に手を握られると怖い。体がびくつく。
手を引き抜こうか?でも引き抜いたら感じ悪い子になる?
いつもなら人の顔色や微妙な表情で、相手の感情が読み取れるのに、今は目が見えなくて何もわからない。
どうしよう……怖い……。
握られていない方の手が震える。
「も〜やめたり。登校初日早々そんなんされたら、怖いって」
男子の声がした。
「なんなん竹田。私らが理沙ちゃん困らせてるみたいやん」
「もし俺が春田さんの立場やったら、そんなに囲まれたらビビるわ」
「竹田なんかにそんなんせ〜へんし」
「はいはい、そこまで。もう予鈴鳴ってるよ。席について」
若い女の先生が手をパンパンと叩くと、みんな自分の席に戻って行く。
「ごめんな。あいつら、悪気はないと思うねん。許したって」
さっき助けてくれた男が小声で話しかけてきてくれた。
「うん。でもさっきは助けてくれて本当にありがとう。竹田くん」
私も小声で返す。
「困った時はお互い様や」
実際には見えなかったけど、多分竹田くんの背中には天使の羽がついているかと思った。
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