1人が本棚に入れています
本棚に追加
次の英文を日本語に訳しましょう
『Is this a pen?』
そんな簡単な問題を前にして,英語を学びたての小学五年生,豆腐逃 散々は悩んでいる。どうして悩んでいるのか,と気になり,試しに頭の中を覗いてみた。
『最近話題の連続爆発事件の標的,私の家になったら怖いなあ』
何を考えているのだ,と思わず声を出して笑ってしまった。その話は,もう数日前に終わった話である。爆弾魔はもう捕まった。近くを歩く担任に頭を小突かれる。
ここ数日,豆腐逃の頭の中を覗いてみて,気がついたことが二つある。まず,豆腐逃は,考えていることとやることが圧倒的に離れている。
たとえば,この英語の問題だって,豆腐逃は
『早く,爆弾魔の人捕まると良いな』
と考えながら鉛筆を動かし,解き終えた。ずっと頭の中を覗いていたのだが,結局のところ豆腐逃が英文について考えていることは一切ない。
そして,豆腐逃はことが過ぎてから,ようやくそのことを考え始める。
「テスト終わりだ。後ろから集めてこい」
そう担任が言う声が聞こえて,自分のテストを前に渡す。先程の一問だけの,確認テストのようなものだ。さて,ここでまた豆腐逃の頭の中を覗いてみよう。
『良かったあ。私が英語で覚えているの,この文だからな』
このように,豆腐逃は何を考えるにも,少し後になってしまうのだ。
実を言うと,僕,田中実はある日からテレパシーを使えるようになった。テレパシストと言ったところか。
そして,小学五年生になって初めて同じクラスになった豆腐逃の頭の中をなんとはなしに覗いてみたら,興味が湧いた。僕が日本で一番多い,田中実という名前で,彼女が豆腐逃散々という世にも奇妙な名前であったことも関係するのかもしれない。
とにかく,僕は彼女のことが気になっている。再び彼女の頭の中を覗けば,ようやく
『テスト終わったあ』
と一息ついているところだった。が,実際には今,彼女は友達と談笑している。
最初のコメントを投稿しよう!