これはペンですか?

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 下校の道は憂鬱だ。豆腐逃はいないし,父親のことを思い出すからだ。実際,今思い出していた。 「大丈夫,大丈夫だからな」  姉は僕を抱きしめて,そう言った。僕が震えるあまり,姉の眼鏡が落ちてしまう。何度も「大丈夫」と励ます声が,なぜか重なった。 「姉ちゃん,二人いる?」  思わず,そう言ってしまった。そんなわけはないのに。だが,姉ちゃんは,悲しそうな顔を浮かべ,涙を目の端に溜めた。 「すまなかった。私は,守れなかった」  お姉ちゃんはそう言うと,また僕を抱きしめた。 「あいつから守れなかった」  あいつ,とは父のことだろう。僕はやけに寝心地の悪いベットに寝そべって,気がついたらこうなっていた。姉の声が二重に聞こえる。 「実験は成功みたいだ」  姉と同じような眼鏡を中指で押し上げ,父が言う。それを,姉が睨んだ。 「これは世に驚きをもたらすものになるぞ。と言っても,世には出さないが」  姉は言葉を失ったのか,口を動かそうとしている。が, 「お前は息子すらも道具なのか,か?」  と父は言い当てた。図星なのか,姉は目を逸らす。 「ああ。他人だと色々問題があるからな。お前らは,実験のために作ったと言っても過言じゃない」  姉が一層目つきを険しくした。  あれから数年が経ち,姉は死んだ。実験失敗で。あれ以来,僕は,毎日神社に行っては,願っている。 『父が死にますように』  だが,いつになっても叶う気配がない。母は積極的に父と離婚しようとしているらしいが,父はせっかくの良い実験材料を手放したくないのか,一向に判子を用意しない。  今までの人じゃないような実験の数々も,一切証拠を残しておらず,訴えることはできない。  神社で願い終わり,僕は本格的に帰る気持ちを用意する。ふと,下を向くととても高級そうなシャープペンシルを見つけた。思わず口に出す。 「Is this a pen?」 「No,it isn’t.」  やあ,と豆腐逃は手を上げる。
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