冷静でいられない

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冷静でいられない

 たけしが漫画を読んでいると、血相を変えた弟のまさるが部屋に飛び込んできた。 「お、お兄ちゃん、僕」 「なんだ」 「財布を落としちゃった!」  漫画を置き、まさるに向き直るたけし。 「いくら入ってたんだ」 「何万円かは入ってた。お年玉もらったばかりでしょう。どうしようどうしよう」 「ま、落ち着け」たけしは泰然自若。「そんな、この世の終わりみたいな顔はするな。警察には届けたのか」 「ううん。まだ」  たけしは諭すように言う。 「冷静になれ。まず、歩いてきた道を丹念にさがすんだ。それでもみつからなかったら交番へ行きな。もし、財布が出てこなくても気落ちすることはないぞ。命まで取られるわけじゃない。財布を無くす、生活していればあることだ」 「だってだって」  まさるは今にも泣き出しそう。  フッと笑うたけし。 「冷静になれ。お兄ちゃんの言うとおりにやってみな。出てくればめっけもん。だめでも、そんなの人生においては大した出来事じゃない」 「じゃ、じゃあ僕探してくる」 「うん。車に気を付けてな」  まさるは真剣な声色でつぶやいた。 「絶対みつけなきゃあ。お兄ちゃんの財布」  たけしは色を失った。 「ヒィッッッ!」
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